キリムの糸の染色
キリムに使われる糸の染色方法は大きく分けて、”草木染”と化学染料染”という2つの方法が存在します。ここではまず染めの工程ついて、その後草木染と化学染料染のそれぞれの概要と特徴をご説明し、最後に草木染と化学染料染の見分け方についてご紹介したいと思います。
染めの工程
草木染の場合、染めの工程は先染め(Yarn Dyeing)と後染め(Piece Dyeing)の大きく2つに分けられます。先染めとは毛を糸に紡ぐ前に染める方法であり、後染めとは毛を糸に紡いだ後に染める方法です。キリムの場合は後染めを用いるケースがほとんどです。
草木染 (Natural Dyes)
植物・昆虫・貝殻・鉱石など、自然に存在するものを染料とした染めの技法のことを指します。草木染の歴史は古く、紀元前25世紀頃には既に用いられていたことが、エジプトの古代の墓を発掘調査した結果から判明しています。ここでは、
- 草木染の特徴
- 草木染の技法
- 草木染の原料
- 草木染の象徴であるアブラッシュ(Abrash)
についてご紹介していきたいと思います。
【草木染の特徴】
草木染の主な特徴には以下のようなものがあります。
- 色の精製方法は個人が持つ秘伝である
- 同じ原料・同じ手法を用いても、同じ色が出来上がるわけではない
- 染めに技量が必要とされる上に手間が掛かる
- 後染めの場合、アブラッシュと呼ばれる自然の色のグラデーションが自然発生する
- 年月を経るにつれて退色することにより、染た段階では出せない素晴らしい色合いが生まれる
草木染は全体的に化学染料に比べて、本質的により柔らかくまた優しい色合いになります。自然の原料の持つ色には、単一の色素だけでなくその他の色んな色素が含まれていることがその要因です。例えば自然の赤には青や黄も含まれています。そのため、化学染料のように赤の色素しか持たない赤とは大きく違ってくるのです。
草木染の素晴らしさは誰もが認めるところであり、昔は草木染のキリムがほとんどでした。しかし、昨今草木染のキリムはほとんどなく、今では化学染料が市場を席巻してしまっています。理由は化学の方が簡単に利用することができるうえ、手間が掛からずまた技量を持った人も必要としないため、コストを削減するにはうってつけだからです。
ちなみに草木染をする際、自分の好みの色を出すために神にお祈りの儀式までする人もいるほどですから、草木染は難しくまた尊いものであったと言えます(注:現在トルコでは草木染を見直すため復興プロジェクトが進んでいますが、それでも化学染料が大半です)。
これは余談ですが、100%天然の原料でキリムを織り上げることを良しとしない人達が一部に存在し、彼らはキリムの一部に化学染料を意図的に用いるのです。これは化学染料を用いることで、完璧を避け神に及ばないようにする(つまり100%天然のものを生み出せるのは神のみである)と彼らは考えているためです。
【草木染の技法】
草木染の技法は大きく分けて3つの種類に分けられます。草木染には触媒を必ず加えると思っておられる方が多数いますが、実はそうではないのです。そこでここでは、その3つの技法それぞれについてご説明したいと思います。
触媒染 (Mordant Dyes)
触媒を加える方法で、草木染の大半にこの方法が用いられています。染めの原料自体は水に溶けるのですが、原料に含まれている色素自体は有機物で出来ているため、水に溶けません。触媒にはこの有機物を水に溶かし、色素を色の繊維まで浸透させる効力があるため、用いられているのです。触媒の中でも一般的に知られているものの一つであるミョウバンは、明るい色に仕上げるという効果も持ち合わせています。
建染 (Vat Dyes)
発酵を利用した方法で、藍にこの方法が用いられています。アルカリ性溶液を入れた甕(かめ)の中に藍を入れ密封し、熟成させることで染める方法ですが、注意すべきはこの溶液に漬けただけで青く染まるのではないという点です。糸は一旦溶液から取り出した後、空気に触れさせることで初めて青く染まるのです。
直接染 (Direct Dyes)
その名のとおり、触媒を一切用いず繊維を直接染める方法です。クルミの葉や殻を原料とする際、この方法が用いられます。
【草木染の原料】
染めに使われる原料は豊富です。そのうちの代表的なものを以下にご紹介します。
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赤 |
アカネ、コチニール、ラック、ケルメスナラ、紅花、ケシ、さくらんぼの皮、バラの根、チューリップの花びら、ナツメ、ザクロなど |
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青 |
藍(イランでは非常に高価な原料)、ナスなど |
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黄 |
タカトウダイ属の植物、たまねぎの皮、クロウメモドキ、カミツレ、サフラン(イランでは安価な原料)、麻など |
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オレンジ |
赤と黄を混ぜて作られる |
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紫および青紫 |
赤と青を混ぜて作られる |
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茶 |
クルミの皮など |
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黒 |
オークや漆など(これらには鉄分を有するタンニンが含まれているため) |
【草木染の象徴であるアブラッシュ(Abrash)】
アブラッシュとは糸を染めた際に自然に現れる色ムラのことです。これは不良品ではなく、貴重な色のグラデーションとして高く評価されています。このアブラッシュは意図的に生み出すことは不可能であり、加えて以下の条件が揃わない限り発生しないのです。
- 後染めであること
- 手紡ぎの糸であること
- 草木染であること
なお意図的にアブラッシュを作ろうとした場合はグラデーションにならず、縞模様になってしまう(要は失敗)ことがほとんどです。しかし、近年の化学染料の技術の発達により、人工的にこのアブラッシュを作り出すことが可能になったとの話もありますが、弊社では現在未確認です。
化学染 (Chemical Dyes もしくは Synthetic Dyes)
化学を用いて人工的に生み出した色が化学染料で、この染料を用いて染める方法が化学染です。化学染料は1856年にイギリス人のウィリアム・ヘンリー・パーキン(William Henry Perkin)によって、コールタールから科学的に抽出したアニリンを使い、紫色を生み出したのが最初です。ですからこの時(1856年)以前の織物には、一切化学染のものは存在しないということになります。
【化学染の特徴】
化学染の主な特徴には以下のようなものがあります。
- 一定の色に染めることができる
- 安価である
- 染めに技術を要しない
- 短時間で染めることができる
- 草木では出せない色(蛍光色など)を生み出すことができる
- 年月を経るにつれて退色するが、汚らしい色になる
- 草木染に比べ、きつく・明るすぎる色合いになり、見ていると疲れてくる
その理由は長く使っていくうちに、その色のきつさに疲れてしまい、嫌気がさしてくるためなのです。また化学染も草木染と同じく退色しますが、その際草木の退色とは違い、非常に汚らしい色合いになってしまうこともその理由です。
世界的に見ても草木染が圧倒的に支持されており、化学染料は所詮人間の生み出した幻想に過ぎず、天然のものにははるかに及びません。ちなみに化学染料が開発された当初は非常に高価なものでした。そのため、当時は逆に化学染のものが草木染のものより珍重されたのです。
しかし、技術の発達とともに化学染料の価格は下がり、生産コスト面から言うと草木染とついに逆転してしまったのです(草木染は天然の素材を原料としているため原材料はほとんどゼロですが、手間が掛かることと、染めの技術を有する熟練者が必要であることから、逆にコストが高くなってしまったのです)。

