イラン (ペルシア)

 
キリムは様々な国で織られています。ここではイラン(ペルシア)のキリムについてご紹介していきたいと思います。

カシュガイ (Qashqai)= 部族名

カシュガイ地図
イラン南西部にあるファーズ州(Fars:地図中@)、フーゼスタン州(Khuzestan:地図中A)、イラン中心部にあるイスファハーン州(Esfahan:地図中B)の南部で暮らす遊牧民です(地図中、赤の部分が首都テヘラン:Tehran)。特にファーズ州にあるシラーズ(Shiraz)に多く住んでいます。

ちなみにカシュガイ族の公用語はチェルク語です。 元来遊牧を生業としていましたが、最近では定住する人が増えており、遊牧の生活をしている人は激減しています。

伝統的なキリムを織ることで非常に有名であり、彼らが織り出すキリムのファンが世界中に存在しています。ペルシャキリムの中で最も有名なものの一つです。カシュガイのキリムは様々なバリエーションがあり、あまりパターン化されていないことが最大の特徴です。特にオールド以上の古いカシュガイのキリムは大変価値があり、マニアから絶賛されています。

カシュガイ族の生活風景

カシュガイ族のキリム


なお、カシュガイ族はキリムだけでなく絨毯を織ることでも有名です。俗にトライバルラグ(ペルシア絨毯の一種)と呼ばれる、工房系とは違う部族系の絨毯です。特にカシュガイ族の織る絨毯で最も有名なギャッベ(Gabbeh)はその独特のフカフカ感が世界中で愛されています。

コーラサン (Khorasan) = 地名

コーラサン地図
ホーラサン、またはホラサンとも呼ばれています。イラン北東部に位置しており、 2004年9月まではイラン最大の州でした。現在は、North Khorasan(地図中@)、Razavi Khorasan(地図中A)、South Khorasan(地図中B)の3つに分割されています(地図中、赤の部分がテヘラン:Tehran)。ちなみにコーラサンには、”日出づる処”と言う意味合いがあります。

アフガニスタンと旧ソビエト領の国境に隣接しており、クルド族(Kurd)、トルクメン族(Turkomen)、バルーチ族(Balouch)がかつては土着していました。19世紀にはテッケ族(Tekke)やヨムート族(Yomut)などがソビエト連邦から脱出し、この地へ移り住んで来たのです。

このため様々な部族がこの地でキリムを織っていたため、多種多様なキリムが生み出されてきました。ちなみにコーラサン産のラクダの毛のキリムは有名でしたが、昨今では市場で発見するのは大変難しく、極めて希少価値の高いものと言えます。コーラサンは冬の気候が非常に厳しく、マイナス10度を下回ること度々あります。余談ですが、コーラサンはサフランの産地として世界的に有名な場所でもあります。

ザランド (Zarand) = 地名

ザランド地図
イラン中南部にあるケルマン州(Kerman:地図中、黄色部分 赤色部分は首都テヘラン:Tehran)にある村で、ケルマンの首都から北に75kmほどの場所にあります。ザランドのキリムの中にはシャーサヴァン族の織り上げたキリムもあり、その場合はザランド産のシャサヴァンキリムとして扱われることもあります。

縦糸に綿、横糸にウールを使用しており、きつめに織られていることが特徴です。柄にもパターンがあり、大抵は植物のツルが伸びた花柄(セネのキリムにも似たような模様がよく使われます)や、三つ葉のモチーフが織られています。色については、落ち着いた青・クリーム・茶などがよく使われます。なお、ザランドオールドキリムは近年現地でもまず目にすることができないほど、大変希少価値の高いキリムです。

シャサヴァン (Shasavan) = 部族名

シャサヴァン族のキリム
シャサヴァンは部族名で、シャーサヴァン、ショーサヴァンなどとも呼ばれています。名前の由来は”シャー(Shah:ペルシア語でリーダーを意味する語)の熱愛者”という意味であり、シャファヴィー(Safavy:1501年〜1736年)の政治家に忠誠を尽くす傭兵を指していたと言われています。

シャサヴァンのキリムは馬に掛けるホースカバー用キリムが最もよく知られています。 (左はシャサヴァン族によって織られたサドルバッグ)

セネ (Senna) = 地名

セネ地図
現在の地名はサナンダジ(Sanandaj)として知られており、イランのクルディスタン(Kurdistan:地図上、黄色部分。赤色の部分は首都テヘラン:Tehran)の首都です。 なお、セネはセナと表記している日本のキリムディーラーもいますが、一般的にはセネで名が通っています。クルディスタン自治区ということもあり居住者の大半がクルド人ですが、カルデア人(Chaldean)、アルメニア人(Armenian)もおり、加えて極めて少数ではありますがユダヤ人(Jewish)も居住しています。

セネのキリムのほとんどが工房で販売目的のために織られたものであり、都市部に住む富裕層に人気がありました。セネのキリムは、縦糸に綿、横糸にウールが使われていることがほとんどで、花・植物のツル・蜂などの細かい単一のモチーフを一面に敷き詰め、中央部に菱形の枠を設け、その中にも花柄を敷き詰める模様が典型的なパターンです。これはヘラチ(Herati)パターンと呼ばれています。

セネの町

現在のサナンダジ

セネのキリム

セネのキリム


特に花柄模様が使われていることが多いので、非常に華やかな印象を受けるキリムです。ただしある程度パターン化されてしまった模様が多いので、独創性に富んだ個性的なセネのキリムはまず目にすることはできないのも事実です。ちなみにセネはペルシア絨毯とジャジム(Jajim:キリムの一種)、そして木工・ジュエリー・装飾品の産地としてもよく知られています。

トルクメン (Turkomen) = 部族名

トルクメン地図
トルクメンは部族を指します。トルクメンはイランだけでなく、アフガニスタンやトルクメニスタンそしてイラクにもいます。イラン国内では、ゴレスタン州(Golestan:地図中@)や北コーラサン州(North Kohrasan:地図中A)に多く済んでいます(地図中、赤色の部分は首都テヘラン:Tehran)。トルクメン族はキリムの織り手としてだけでなく、乗馬の名手として、また有能な商人としても有名です。

トルクメンは優れたペルシア絨毯を織ることで世界から名声を得ており、彼らの織るキリムのデザインおよび色使いは、ペルシア絨毯からヒントを得ていることがよくあります。彼らが生み出す深いアカネの赤や赤みを帯びた茶は非常に素晴らしく、これらの色の糸を使って花のモチーフが描かれています。

トルクメン族の男性

トルクメン族の男性

トルクメンキリムバッグ

トルクメンのキリムバッグ

バクティアリ (Bakhtiari) = 部族名および地名

バクティアリ地図
バクティアリは部族名と地名(チャハマハール・バクティアリ:Chaharmahal and Bakhtiari 地図上、黄色部分 赤色の部分は首都テヘラン:Tehran)の両方に用いられ、”バフティアリ”や”バクチュアリ”などとも呼ばれています。バクティアリ族はイラン南西部に住む遊牧民でルーリー語(Luri)を話すことから、ルーリー族(Lur:ルリ、ロリ、ローリーとも呼ばれている)と同属として扱われることもあります。

バクティアリのキリムはデザイン面において非常に独特であり、今では少なくなった民族独自の個性を持つキリムとして、世界のファンから高い評価を得ています。縦糸は綿、横糸はウールを使用し、硬く強く織られています。このため、大変実用性に長けています。

それだけではありません。キリムは通常裏表がない平織りなのですが、このキリムには裏表が存在するのです。これは平織りだけでなく、スーマック(技法の一種)や多彩な刺しゅう、加えて世界最高の絨毯織りの技術である、ペルシア絨毯の技法(パイル式)が取り入れられているためです。色については、赤・黄・青・オレンジなどの明るいコントラストのものがよく使われています。またタチェン(Tachen)と呼ばれる穀物用の袋などもキリムで作っており、現在はその袋状のものを開いて敷き物状にしたものが特に有名です。

ちなみにこのタチェンはルーリー族も織っており、双方とも同じような技法が用いられています。そのため非常に似ており区別が付きにくいのですが、デザイン面がバクティアリが非左右対称であるのに対し、ルーリーは左右対称となっているケースが一般的です。

バクティアリのキリム
ルーリーのキリム 

バクティアリのタチェン(左右非対象)

ルーリーのタチェン(左右対称)


その独創性・技術・デザイン全てにおいて、キリムの最高峰であると言っても過言ではない超一流のものなのです。しかし、残念ながらバクティアリのオールドキリムは現在激減しており、その他のキリムに比べ圧倒的に希少価値が高くなっています。

バルーチ (Balouch or Baluchistan) = 部族名および地名

バルーチ地図
バルーチは部族名だけでなく、地名としても使われています。厳密に言うと、部族名を指す場合はBalouchであり、地名の場合はBaluchistan(地図上、黄色部分。正式名称はしスターン・バルーチスターン:Sistan and Baluchistan。赤色の部分は首都テヘラン:Tehran)となります。双方とも略して、バルーチと呼ばれることがほとんどです。ちなみにBaluchistanはイラン・アフガニスタン・パキスタンをまたいだ地域を指すことから、大変特殊であると言えます。そのため、バルーチという地名はイランにも、アフガニスタンにも、パキスタンにも存在するのです。

これは、紀元後1000年頃にバルーチ族がこの地域に移民してきたためであり、彼らの部族名がこの地に付けられたことに由来しているのです。このためバルーチのキリムには、イラン産・アフガニスタン産・パキスタン産と3種類のものが存在しているのです。

バルーチ族の男性

バルーチ族の男性

バルーチのキリム

バルーチのキリム


バルーチのキリムは、縦糸は綿もしくはウール、横糸にはウールが使われています。色合いは非常に落ち着いたものであり、地味な茶や深い紫・赤などが綿の白色への対比としてよく使われています。バルーチの織りの技術と色使いは非常に繊細であり、多くの手間と材料を使い織り上げられています。バクティアリのキリムとともに、キリムの中でも最高峰の一つと言っても過言ではありません。

ビジャー (Bijar) = 地名

クルディスタン自治区地図
ビジャー はイランのクルディスタン(Kurdistan:地図上、黄色部分。赤の部分は首都テヘラン:Tehran)にある都市名です。住民の大半がクルド人です。この地で織られたキリムがビジャーキリムと呼ばれており、セネキリムの劣化コピーとして扱う人もいますが、キリムニュースドットコムではこの考えに異論を持っています。理由はビジャーのキリムはデザイン面でセネとは違い、また面白いデザインが全体的に多いためなのです。

ビジャーのキリムには縦糸に綿、横糸にウールが使われ、小さい動物や人間をモチーフにした模様が織られており、可愛い印象を受けます。

ベラミン (Veramin) = 地名

テヘラン地図
イランの首都テヘラン(地図上、赤色の部分)より南東にある地区です。この地にはアラブ族(Arabian)、クルド族(Kurd)、シャサヴァン族(Shasavan)、ルーリー族(Lur)、その他多くの遊牧民が混在しています。その理由は、かつてこの地が東西の貿易の架け橋であったためです。

ベラミンのキリムの特徴はサイズが大きく、かつ重量があるという点です。縦糸は綿もしくはウール、横糸にはウールが使われているのがほとんどです。色は比較的明るい色合いである、赤や青などがよく用いられます。中には変わった色の緑や黄色なども使われます。

このベラミンは2007年の春に訪問したのですが、今では織物の産地であった面影は全くなくなってしまっており、驚きとショックを覚えました。